
KEN SUZUKI SEMINAR
For Flourishing, Resilience and Growth-mind

デザイン思考と国東PJT
私とデザイン思考との本格的な出会いは、2012年春、当時ゼミ生であった韓昇勲 (Han Sunghun)君がデザイン思考を研究テーマにした卒業論文を書きたいと言って来たことです。それまで言葉は聞いたことがあるものの、デザイン思考とは何かについて私も十分に理解していた訳ではなかったので、ゼロから本格的な取組みが始まりました。しかし文献を調べて論文や図書を読み、ワークショップに参加して理解しようと努めたものの、どうも実感が湧かない、隔靴掻痒(かっかそうよう)感が拭えませんでした。大体そういう時は「自らやってみる」に限る!という知恵はあったので、ゼミでデザイン思考を活用した実践活動を行おうと思いました。またちょうどその秋に、別なゼミ生であった米倉大地郎君が、国東の興導寺住職摩尼さんと出会い「国東はこのままではどんどん元気がなくなって行く。ぜひAPUの学生さん達から刺激が貰いたい」との話を私に伝えて くれました。そこで、シーズとしてのデザイン思考と、ニーズとしての国東の活性化という2つの話が一つに結びついて、国東プロジェクトが始まりました。


さて「デザイン思考とは何か」については様々な主張がありますが、私なりの考えを述べれば、「現実を直視し、人々の活動を共感を持って観察することで問題意識を明確にし、それをプロトタイピングによる実践活動を通じて、より良い問題解決法を実現する手法」ということです。その時のキーワードとして、「人間中心」「プロトタイピング」「スピード」などが挙げられます。人間中心とは、問題を抱える人々に対して、共感と尊敬を持った目で観察し接し、その問題解決しようという姿勢がデザイン思考の原点であるということです。また「プロトタイピング」とは試作づくりのことで、単にアイデアではなく、実践を繰返しながら継続的に改善していくという地に足がついた活動のことです。さらにスピード!改善活動は1回だけより、2回、いや複数回やればやるほど良くなるはず。そのスピードを上げることで、より有用な情報が得られ、格段に多くの学習が可能となります。上記のデザイン思考の5つのプロセスは、米国のデザイン・コンサルティング会社IDEOが開発し、スタンフォード大学d.schoolで教えられている「共感Empathize」「問題定義Define」「創造Ideate」「プロトタイプPrototype」「テストTest」という5つのプロセスです。これ以外にもいくつかの考え方が提案されています。デザイン思考は問題解決手法ですから、様々な課題、例えば新商品開発(プロダクトデザイン)や事業改善(ビジネスデザイン)、社会問題の解決(ソーシャルデザイン)など、幅広い課題解決に使われています。

さてゼミの話に戻ると、2013年春からゼミでの実践活動を始めました。春学期にゼミ生を国東に連れて行ってフィールドサーベイを行うと共に、文献調査で国東の歴史、社会、産業などを整理して、問題解決のアイデアが出しましたが、プロトタイピングまでは行きませんでした。翌2014年度は、私が半年間研究のために米国に滞在することが決まっていたためにゼミ生を募集しなかったのですが、ゼミ活動をぜひやりたいという学生が数人集まったので、2年目として本格的な国東プロジェクトにすべく、春から積極的なフィールド調査、課題図書の輪読、実践 ケースの研究などを行い、夏休み前の中間報告で5つの問題定義と3つのサブプロジェクト(情報発信、お寺ステイ、子供ヤング)を計画し、秋にはそれぞれのプロジェクトのプロトタイピングを実践しました。そして2015年度は前年の成果を受けて、より一段レベルアップした活動にしようと、ゼミ生は現在高い熱意と行動力を持って課題に取組んでいます。